甘い恋の賞味期限
 今夜のパーティーに出るためにオシャレしたーーとでも思っていそうだ。

「ふふふ。本当に仲が良いのね」

 薫子が、ふたりのやり取りを微笑ましく見つめている。

「千世も一緒に行こうぜ」

「嫌よ」

 引っ張ろうとする千紘に抵抗すれば、千紘は不満げな顔をする。
 千紘は純粋な気持ちで誘っているのだろうが、千世は色々と考えてしまう。

「行こうぜ〜」

「嫌よ」

 嫌がる千世と、連れて行きたい千紘。
 その光景を黙って見つめていた史朗が、不意に会場入り口に視線を向ける。

「桜木社長……!」

「いやぁ、千紘くんが外へ出て行ってしまったから、追いかけて来たんだが……」

 パーティーの主役が、会場から出てきてしまっている。史朗だけじゃなく、勝彦も驚いていた。

「間宮さん、お久しぶりです」

「遅れて申し訳ない」

「いやいや。お互い忙しいんだ、来てくれただけで十分だよ。……そちらのお嬢さんは」

 桜木の視線が、千世へと向けられる。
 史朗の同伴者は、和音だったはず。
 それなのに違う女性がいて、しかも先程まで退屈そうだった千紘が、明るい顔をしていた。

「あ、彼女はーー」

「オレの母ちゃん!」

「違うっ」

 そこだけは意地でも否定する。
 だが速攻で否定すれば、千紘が泣きそうな顔になった。

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