甘い恋の賞味期限
 史朗と千世の間には、なんの感情も芽生えていない。薫子が余計なお節介を焼けば、恐らくふたりの距離は更に離れていくことだろう。
 勝彦は存外、冷静だった。




*****

 千紘に手を引かれ、パーティー会場へとやって来た千世は、心底思っていた。

「帰りたい……」

 周りには着飾った女性や、いいスーツを着た男性。ブランド物を身にまとっていても、分かる。自分は場違いだ、と。

「パーティーってつまんねぇよな。飯はまぁまぁだぜ」

「一流ホテルの料理をまぁまぁって……」

 ビュッフェに足を運べば、その彩りの良さに目を奪われる。
 やはり、プロの料理は見た目もいい。

「みんな話に夢中で、料理があまり減ってないのね。もったいない。……ナッツのタルトがある。美味しそうね」

「オレにもくれ」

 料理もいいけど、スイーツはより一層美しく華やかだ。
 その中で、控えめな色合いのタルトを見つけた。

「はいはい。ナッツは高カロリーだけど、病気の予防にも繋がる食べ物よ。食べ過ぎはよくないけど」

 千世の話を聞いているのかいないのか……。千紘は皿のタルトに興味津々のようだ。

「千世もタルトって作れるのか?」

「作れない」

「嘘だ〜」

「作れないったら作れない」

 壁際に移動し、ふたりはタルトを食べ始める。千世は腰を落とし、千紘と同じ視線になっておく。屈んでいれば、周りの大人の視界に入らずに済むから。

「美味しいわね、これ」

 サイズ的には小さいタルトだが、ナッツがたっぷりのおかげで、食べ応え十分。

「他の料理も食べたいわ。千紘は? ホテルのビュッフェよ。全種類食べたいくらい」

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