甘い恋の賞味期限
 瞬間、千紘がすごい目で睨んできた。

「オレ、母ちゃんいねーもん」

「……そう」

 これは、思っていた以上に面倒だぞ。触れちゃいけない話題に触れてしまったようだ。

「親父に作ってくれって言ったのに、静子に頼めって言うんだ」

「静子?」

「かせーふだよ。静子はスゴいんだぜ。オレの嫌いな物を、絶対に料理に入れないんだ」

 ピーマンもニンジンも嫌い。しいたけも嫌いだし、ほうれん草も。
 そう言ったら、嫌いなら無理して食べる必要ないですよ、と言ってくれた。

(それって、スゴイのかしら)

 どちらかと言えば、甘やかしすぎているように思う。
 まぁ、他所の家庭事情にとやかく口出しする趣味はない。

「家政婦がいるってことは、君の家はお金持ち?」

「知らね。なぁ、ホットケーキ食べてーんだけど」

(このガキ……食べるまで居座る気ね)

 仕方ない。
 千世は立ち上がると、家のキッチンからホットプレートを取って来る。
 それからボウルに、フライ返しも。

「何すんだ?」

「作るのよ、ホットケーキを」

「マジか!」

 分かりやすいくらいに、千紘は喜んでいる。

「フライパンで作ってもいいけど、どうせなら自分で作った方がいいわ。はい、これにホットケーキミックスを入れて」

 ボウルとハサミを渡すと、千紘は楽しそうに粉をボウルへ入れる。作業は難しくはないし、食べたら家まで送って行こう。

「なぁなぁ、何をかけるんだ? チョコ?」

「ホットケーキには、メープルシロップとバターに決まってるでしょ」

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