甘い恋の賞味期限
 千紘の言う通り、チョコレートも美味しいと思う。
 けれど、やっぱり最後にはメープルシロップとバター。
 このシンプルな組み合わせに落ち着く。

「ほら、焼くわよ」

「…………」

 ホットプレートにミックス液を流し入れ、火が通るのを待つ。
 その様子を、千紘はワクワクしながら見つめている。

(こうして見ると、可愛げがあるかもね)

「なぁ、まだ焼けねーのか? 千世」

 この生意気な口をどうにかすれば、もっと良いのに。顔は悪くないし、将来有望かもしれない。

「君は、もう少し年上を敬うべきね」

 ポンッとひっくり返せば、キレイなキツネ色。
 うん、美味しそうだ。

「うやまうって、どういう意味だ?」

「……礼儀正しくする、ってことよ。年上の人を呼び捨てにするのは、礼儀正しくないでしょ?」

「いいんだよ、オレは」

 自信満々に言う千紘に、千世は首を傾げる。

「静子が言ってた。オレはかわいそーだから、呼び捨てにしても許される、って」

「…………は?」

 今、ものすごいことを言ったのに、言った本人は平然としている。
 いくら5歳でも、可哀想と本人に言ったのか?
 その家政婦は。

「…………」

「なぁ、まだか? ホットケーキ」

「え? あ、もう良いと思うわ」

 皿を引き寄せ、焼きたてのホットケーキを乗せる。バターとメープルシロップをかけたら、完成だ。

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