甘い恋の賞味期限
「熱いから、気をつけて」

 ホットケーキにフォークを刺し、そのまま口に運ぶ。熱いと言ったのに……。
 自分の分も皿に乗せ、バターとメープルシロップをかける。ホットケーキなんて、何年振りだろう?

「……美味しい。どう?」

「うまい! 今度はオレが焼く!」

「はいはい。まずはそれを食べてからね」

 そう言うと、千紘は残りのホットケーキを無理矢理口の中へと押し込む。

「上手く焼くコツとかあるのか?」

「そうね、初心者なら教科書通りに。そして、1番重要なこと。それは、初心者も上級者も同じよ」

 ミックス液をホットプレートに流し入れ、千世は真っ直ぐに千紘を見つめる。

「たっぷりの愛情を入れること」

「……うへぇ」

 千世の言葉を聴いた瞬間、千紘がバカにしたような態度を取る。

「分かってないのね、君は。愛情があれば、大抵の料理は美味しくなるものよ」

 どんなに良い材料を使って、最高級の設備で料理したって、最後の決め手は愛情と言う名のスパイスだ。

(……ちょっと気持ち悪いわね)

 愛情と言う名のスパイスーー自分で言っておいてなんだが、少し寒い響きだ。

「はい、ひっくり返して」

「……やった!」

「初めてにしては、まずまずね」

 喜んでる姿は、本当に子どもそのものだ。
 千世は微笑みながら、その後もホットケーキを焼き続けた。


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