甘い恋の賞味期限
 時計の長針が、3時の位置にある。千紘が来たのは13時過ぎだったから、2時間も居ることになる。

「親御さんーーお父さんが心配してるはずよ。さ、うちはどこ?」

「……親父は仕事だろ、どうせ」

「家政婦さんに黙って出て来たんでしょ? なら、その家政婦さんがお父さんに連絡してるはずよ」

 今頃、大慌てで千紘を探しているはずだ。

「…………」

「何、スマホ持ってたの?」

 千紘がポシェットから取り出したのは、子ども用スマホ。電源を切っていたが、どうなっているのだろう?

「……千世は嘘つきだ」

「ホットケーキを焼いてあげたお姉さんに向かって、嘘つき?」

「見ろよ! 親父からの電話なんて、ひとつもねーじゃんか!」

 千紘が突き出したスマホの画面には、何十件もの着信が来ている。
 だが、そこに男性の名前はない。
 あるのは【しずこ】の名前のみ。

「連絡してないのかしら?」

 親なら普通、子どもがいなくなったと知れば、血眼になって探すものだ。
 だが、父親からの着信が一件も無いと言うことは、家政婦が連絡していないのかもしれない。

「どちらにしろ、私は君を送って行く。いいわね?」

「イヤだ。帰んねぇぞ、オレは」

 ふてくされたのか、千紘は喫茶店のイスに腕組みして座り込む。

「ワガママを言うのはやめなさい。今すぐ立たないと、酷い目にあわせるわよ」

「できるもんならやってみろ」

「……そう。なら、覚悟なさい」

 千世は腕まくりをすると、一歩千紘に歩み寄る。
 そしてーー。

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