甘い恋の賞味期限
 しかも、どうやら最上階のようだ。

(生意気に育つわけよね)

 きっと、大事に大事に育てられたのだ。
 なら、この生意気さも納得できる。大人になってから困るだろうけど、それは千世の責任じゃない。

「坊ちゃん!?」

「あ、静子」

 千紘の視線を追えば、こちらに向かって走る女性が見えた。
 彼女が静子か。

「坊ちゃん、どこに行ってたんですか? お願いですから、2度と黙ってどこかへ行かないでください。私が旦那様に怒られてしまいます」

「もう2度としねーよ。千世、またな。今度はプリンを作ってくれ」

「今度? また来る気?」

 思いもよらない言葉に、千世はうろたえる。

「おう。それから、オムライスも作ってくれ。千世の母ちゃんが言ってたぞ。千世の作るオムライスはぜっぴんだ、って」

「……はぁ、分かった。けど、次来る時は必ず誰かに言ってから来て。それから、私は土日しかあの店に行かないから」

 平日は会社の召使として働いているからーーなんてことは言わないが、平日に来られても両親が困る。

「分かった! じゃあな!!」

 元気良く駆け出し、千紘はマンションの中へ行ってしまう。

「あの体力が羨ましい……」

「あの、坊ちゃんを送ってくれて、ありがとうございます」

「いえ、たまたまですから。……このこと、お父様にはお伝えしてるんですか?」

 差し出がましいと承知で、言ってしまった。
 あの着信履歴に父親の名前がなかったことは、やっぱり見逃せない。

「どうして、そんなことを聞くんですか?」

「着信履歴が、あなたの名前だけだったので」

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