甘い恋の賞味期限
カラメルは苦く
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 お昼休み、千世は社員食堂の隅で暇潰しに料理本を開いていた。今はネットで、無料のレシピを公開しているアプリなどもあるが、こういう料理本を読むのは昔から好きだ。美味しそうと思ったら、実際に作ってみたりもする。

「何見てんの? プリン? 作るの?」

 現れた小山田 心晴が、本を覗き込む。手には、社食のAランチがある。今日のメニューはカレーのようだ。
 ものすごく、スパイシーな香りがする。

「お菓子作れるのって、憧れるなぁ」

 次いで現れた広瀬 愛菜は、コンビニで買って来たサンドイッチがお昼らしい。紙パックの野菜ジュースと、サラダもテーブルに並べている。

「私不器用だから、料理って苦手なんだよね」

「私も苦手。小さじとか大さじとか、面倒じゃない?」

 十人十色と言う言葉があるが、正しくそれだ。
 千世は本を閉じ、お弁当を取り出す。

「プリンのカラメルは、苦い方が良いと思うわけよ」

「ち、千世ちゃん? 急にどうしたの?」

「たまに、カラメルそのものが無いプリンもあるじゃない。あと、クリームが乗ってるプリンとかも。けど私は、いつだってシンプルに辿り着くの」

 お弁当のフタを開けると、美味しそうなおかずがたくさん詰めてある。ご飯には、別添えで付けておいたふりかけをかける。

「私もカラメルは苦い方が好き。無いのも無いで好きだけど、クリーム有りは甘すぎるかな」

「晴ちゃん、普通に参加するんだね」

 愛菜は未だに、ちょっと戸惑っている。
 だが、話に参加しないでいるのは寂しい。

「私は、甘い方が好き。それから、柔らかい方が良いかな。たまに、固いのとかない?」

「あるある。けど、私は固いのが好き。千世は?」

「う〜ん……私は柔らかいのも固いのも好きだけど、蒸すのと焼くのだったら、どっちが良いかな」

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