甘い恋の賞味期限
 何故だか、千紘は誇らしげに胸を張っている。
 千世はやれやれと肩を押すと、自宅の冷蔵庫に向かう。

「作っておいた私も、かなりのバカよね」

「おー! プリンだ!! しかもデケェ!」

 千世が作ったのは、小さなボウルのプリン。コンビニなどで売っているプリンよりも、遥かに大きい。

「手作りするんだから、普通のじゃつまらないでしょ。ところで……今日はちゃんと、誰かに言って来てるのよね?」

 プリンを渡す直前、千世が確かめるように千紘を見つめる。前回、千紘は家政婦の静子に黙ってここに居た。
 いくら生意気なガキと言っても、心配させるのは良くない。

「い、言ってきたし」

「嘘ね」

「なんでだよ!?」

「あの家政婦が、君をひとりでここに寄越すはずないから」

 初対面だったが、静子はかなり千世へ敵意のようなものを向けていた。
 あんな感情を向ける相手の元に、千紘をひとりで来させるものか。

「電話しなさい。しないなら、このプリンはあげない」

「……千世はイジワルだな」

「常識があると言いなさい。本当に意地悪なら、プリンなんて作らない」

「そのプリン、やっぱオレのために作ったのか?」

 妙なところに気づく子だな。
 ただ事実なので、千世は素直に頷く。
 すると、千紘はニマニマしだす。

「へ、変な子ね。いいから早く、電話なりメールなりしなさい。いらぬ怒りを買いたくないから」

 千紘は慣れた手つきで、メールを売っている。5歳のくせに、一丁前にスマホを使いこなしているとは。

「送ったぞ。プリン食べてもいいか?」

「はいはい、どうぞ」

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