甘い恋の賞味期限
戸惑いのキャンディはレモン味
*****
その日は、仕事を早めに切り上げた。母親による、半ば強制的とも言える命令のためだ。一旦マンションに帰って、千紘も連れて来た。
以前会った、見合い相手と再び会うために。
「この子が、千紘くんなんですね。はじめまして、私は和音、って言います」
「…………」
千紘は返事もせず、そっぽを向いている。安定の不機嫌さだ。
「すみません。お腹空いてて、ちょっと機嫌悪いのかもしれません」
「そうなんですか? じゃあ、早速料理を持って来てもらいましょう」
和音は笑顔で、店員を呼ぶ。見合いした帝国ホテル内にあるレストランで、見合い相手と食事をしている。
あの時と同じで、乗り気ではないが。
「千紘くん、好きな食べ物とかある?」
「……千世の作ったもん」
「え? ごめんね、よく聞こえなかった」
小さくボソッと漏らしたため、和音の耳には届かなかった。
だが史朗としては、聞こえなくてよかったと思っている。見合い相手の前で、別の女性の名前を出すことは、良くない。
そのぐらい、乗り気ではない史朗にだって分かっているから。
「えっと……猪寺さんは子ども好き、ですか?」
「はい。保育士になりたいと思っていた時期もありました」
じゃあ、なんで保育士にならずに親戚の会社で働いているんだろう?
「間宮さんは、今まで再婚なさらなかったんですね。その……やはり、前の奥様がーー」
「彼女には一切の未練がありません」
即答する史朗の顔は、感情が全く無かった。
それが逆に怖くて、和音は思わず黙ってしまう。
「オレ、トイレ」
「ひとりで行けるか?」
「ん」
その日は、仕事を早めに切り上げた。母親による、半ば強制的とも言える命令のためだ。一旦マンションに帰って、千紘も連れて来た。
以前会った、見合い相手と再び会うために。
「この子が、千紘くんなんですね。はじめまして、私は和音、って言います」
「…………」
千紘は返事もせず、そっぽを向いている。安定の不機嫌さだ。
「すみません。お腹空いてて、ちょっと機嫌悪いのかもしれません」
「そうなんですか? じゃあ、早速料理を持って来てもらいましょう」
和音は笑顔で、店員を呼ぶ。見合いした帝国ホテル内にあるレストランで、見合い相手と食事をしている。
あの時と同じで、乗り気ではないが。
「千紘くん、好きな食べ物とかある?」
「……千世の作ったもん」
「え? ごめんね、よく聞こえなかった」
小さくボソッと漏らしたため、和音の耳には届かなかった。
だが史朗としては、聞こえなくてよかったと思っている。見合い相手の前で、別の女性の名前を出すことは、良くない。
そのぐらい、乗り気ではない史朗にだって分かっているから。
「えっと……猪寺さんは子ども好き、ですか?」
「はい。保育士になりたいと思っていた時期もありました」
じゃあ、なんで保育士にならずに親戚の会社で働いているんだろう?
「間宮さんは、今まで再婚なさらなかったんですね。その……やはり、前の奥様がーー」
「彼女には一切の未練がありません」
即答する史朗の顔は、感情が全く無かった。
それが逆に怖くて、和音は思わず黙ってしまう。
「オレ、トイレ」
「ひとりで行けるか?」
「ん」