甘い恋の賞味期限
「おう!」

 ピッと電話を切り、千紘はドアノブに手を伸ばす。

「……お腹痛い……」

 千世は父親に言えと言っていたが、言うのは気が引ける。子ども心に、史朗が働いているのは自分のためだと分かっているから。
 けど、遊んでくれないのは腹立たしい。

 ーーコンコンコン。

「千紘? 大丈夫か?」

「い、今出る!」

 様子を見に来た史朗に驚き、千紘は慌ててトイレから出る。

「どうした? 腹でも壊したか?」

「だ、大丈夫」

 本当は、ちょっと痛い。
 でも今は、我慢しよう。




*****

 翌日、千紘は腹痛でベッドの中にいた。

「病院連れてくから、もうちょっと待ってろ」

「行かねぇ……いいから、仕事行けよ」

 ベッドの中で丸まりながら、千紘はらしくないことを言っている。
 それが余計に、心配を増幅させてしまう。

「やせ我慢するな。熱は無いが、昨日からずっとだろう?」

 結局、昨日の食事は途中で終わってしまった。千紘の顔色が悪くなっていたから、史朗はさっさとレストランを後にした。

「平気だって言ってんだろ。……びょーいんには、静子と行く」

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