甘い恋の賞味期限
「けどなぁ……」

 心配なのは本当だ。日頃、仕事ばかりなのだから、病院くらい連れて行く。

「静子と行くっ」

「……分かった。何かあったら、すぐ電話しろ。いいな?」

「…………わかった」

 後ろ髪引かれる思いだが、千紘は意地になっている。
 ここは、静子に任せた方が良さそうだ。

「じゃあ、行ってくる」

 千紘の頭を撫で、部屋を出て行く。腹痛の息子を置いて行くのは心苦しいが、静子にいつもいつも任せてしまうのも心苦しく、また情けない。
 史朗は暗い面持ちで、会社へと向かうことにした。




*****

『え? あんた、また家政婦のバイト? 今日は一緒に、24時間カラオケ行く予定だったじゃん』

「悪いと思ってる。けど、私の将来がかかってんの」

 玄関で靴を履きながら、静子は置いてある鏡で前髪を整える。化粧はバッチリ、服装も完璧。

『社長夫人なんて、あんたの柄じゃないと思うけどね〜』

「私をそこら辺の女と一緒にしないでよ。私は純粋に、間宮さんの好きなんだから」

『でも、子どもは嫌いなんでしょ? 前から言ってたじゃん。生意気で好きになれない、って』

「それは……」

『結婚したら、100パーその子は付いてくるんだよ? いいわけ?』

 静子は、ドアノブを回す手を止める。
 そんなこと、言われなくても分かっていることだ。
 それを承知で、静子は半年、働いてきた。

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