甘い恋の賞味期限
『やっぱ子持ちはやめなよ』

「ほっといてよ。切るからね」

 電話を切ると、静子は外へ出る。

「私だって、カラオケ行きたいよ」

 家政婦になって半年、友達との約束を断ってきた回数は、1回や2回じゃない。
 この仕事が嫌になる時は、本当にたくさんある。飲みにもいけないし、今日みたいにカラオケにだって行けない。
 それでも続けている理由は、ただひとつだけ。




 静子が間宮宅へ来たのは、史朗が会社へ行ってから1時間後。千紘の部屋を覗けば、ぐっすりと眠っているようだった。

「何よ。大したことないんじゃない」

 顔色も悪くなさそうだし、父親を引き止めるための仮病だったのかも。
 静子はため息をつくと、リビングへ行く。

「LINE来てる。……楽しそう。いいなぁ、私も行きたい」

 友達に送り返せば、来たら? なんて返事が返ってきた。
 静子はもう一度、子ども部屋の様子を見に行く。

「……よく寝てるし、1時間くらいいいよね? 間宮さんにバレなきゃいいんだし」

 今から行くねーーそう送れば、静子はゆっくりと扉を閉めた。




*****

 間宮グループ本社の総務部には、専用の書庫がある。
 そこには大量のファイルが保存してあり、管理も重要な仕事だ。

(来月は社員旅行があるから、その案内を作成しないと……)

 去年以降の案内を取り出し、その年に行った旅行先を調べる。社長の気遣いなのか、毎年同じ場所には旅行に行かない。

「槙村さん、スマホ鳴ってるよ。電話みたい」

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