甘い恋の賞味期限
 ぶつかったのは男性のはず。
 なのに、女性に注意された。

「すみません。急いでいるので失礼します!」

「待ちなさい! ……騒々しい人ね。専務、お怪我はありませんか?」

 険しい表情から一変、女性は笑顔を浮かべる。
 こういう瞬間を目の当たりにすると、女性って怖いな、と思うのだ。史朗は。

(千紘、病院行ったかな……)

 やっぱり、意地でも自分でも自分が連れて行けばよかった。出社しても、ずっと千紘が気になってしまう。

「はぁ……」

 気になるのは仕方ない。メールだけしておこう。千紘と静子に。




*****

 マンションが近づいてきて、千世はあることに気づいた。
 どうやって、部屋に上がろう。
 そもそも、千世は部屋の番号すら知らない。インターホンを鳴らしても、腹痛で苦しむ千紘が出れるはずもない。

「どうしよう……!」

 マンション前に来て、千世は見知った人を見つけた。
 あれは、静子だ。苦手な感じではあるが、今はなりふり構っていられない。

「そこの人! そこの、ムダに化粧の濃い、ミニスカートの人!」

「はぁ?」

 慌てているのと急ぎすぎているので、咄嗟に静子の名前が出てこなかった。
 だが、静子は自分が呼ばれていると気づいたようだ。すごい形相で、千世の方を振り返る。

「あ、あんた……なんでここに? ていうか、その格好何?」

 以前会った時は敬語だったのに、今はタメ口。
 だがそんなこと、この緊急事態では構っていられない。

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