甘い恋の賞味期限
「部屋の鍵、持ってるでしょ? 中へ入れて」

「い、嫌よ!」

「一大事なのよ!」

「……! 坊っちゃんっ」

 千世の剣幕の理由に、静子は気づく。彼女がここへ来る理由なんて、ひとつしかない。
 静子はバッグからカードキーを取り出すと、急ぎ足でマンションの中へ。
 その後に、千世も続く。

「坊っちゃん!」

 静子は部屋へ上がると、真っ直ぐ子ども部屋へ向かう。
 この部屋へ来るまでのエレベーターの中で、何度も帰るよう言われたが、千世は頑なに拒み続けた。
 千紘が無事かどうか、自分の目で確かめなければ。

「坊っちゃん? 静子です……やだ」

 部屋に入った瞬間、静子が顔をしかめる。
 千世も、入った瞬間に気づいた。
 このにおい、千紘は吐いてる。

「千紘!」

 ベッドに駆け寄れば、千紘の顔は真っ赤。

「吐いたもの、喉に詰まってないわよね?」

 千紘は横を向いていて、呼吸もある。
 その点は大丈夫そうだ。不幸中の幸いに、安堵する。

「……ち……せ?」

「大丈夫……なわけ、ないわね。すごい熱だわ」

 手で触れただけだが、38度は超えていそう。
 千世は上着を脱ぐと、千紘をゆっくりと起き上がらせる。

「な、何するの?」

「病院に連れて行くのよ。あなた、千紘のお父さんに連絡して」

「え」

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