甘い恋の賞味期限
「脚立を持ってもらったんです。備品のチェックくらい、喜んで引き受けますよ」

 そう言って、聡太を先に帰らせる。
 あんなに重い物を、毎回持ってもらっているんだ。甘え過ぎたら、バチがあたる。

「減ってる物とかありますか?」

「勝手に調べてちょうだい。忙しいの」

「…………はい」

 予想通りの反応だ。仕方ないから言われた通り、勝手に調べることにする。

「…………A4サイズと、後はーー」

 こっちはコピーした紙の裏をメモ帳代わりに使ってるのに、ここでは次から次へと白い紙が消費されていく。
 これは由々しき事態だ。コスト削減を社長自ら謳っているくせに。

「ねぇ、これを出して来てくれない?」

「は?」

 珍しく声を掛けられたかと思えば、茶色い封筒を押し付けられrた。

「お願いね」

「あ、これもついでにお願い」

 千世の手には、合計3つの封筒が。総務部が社内の何でも屋と言われているとはいえ、これは総務部の仕事だろうか?

「…………はいはい、行きますよ」

 とは言え、嫌ですと断りでもしたら、何を言われるか分からない。無駄な体力を使うのも嫌だし、ここは引き下がるが勝ちだ。封筒を手に、千世は秘書室を出て行こうとする。

「専務が来られるわ! ほらそこ、デスクが散らかってる。片付けて」

「やだ、コーヒーこぼしたっ」

 急に秘書室が騒がしくなり、千世は首を傾げる。専務と言うと、確か社長の息子。よく覚えていないが、イケメンだった気がする。

「ねぇ、総務部のあなた。これ、片付けてくれない」

「……は?」

 コーヒーをこぼした秘書が、自分のデスクを指さしている。
 それは私の仕事でしょうか?

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