甘い恋の賞味期限
 当たり前のことを言ったつもりなのに、思いもよらない反応が返ってきた。

「1番近い病院は……近くに、総合病院があったわよね。千紘、これから私と一緒に、病院へ行きましょう」

「……きもちわるい……」

「吐いてもいいわ」

 千世の言葉と同時に、千紘はまた吐いた。服にかかったが、量は少ない。
 だが、あまりにも吐いているのなら、脱水症状にもなりかねないし、早く病院へ行こう。

「わ、私が連れて行きます!」

「じゃあ、保険証とか持ってきて」

 千紘を抱えると、千世は力強い足取りで子ども部屋を出て行く。

「ほ、保険証……どこだっけ。確か、リビングの引き出し……」

 静子は逃げるように、部屋を飛び出した。




「容態も落ち着きましたし、大丈夫でしょう。念のため、2、3日入院させましょうか?」

 歩いて10分程度の距離に、総合病院はあった。千紘を連れて行けば、すぐに診察してくれて、今は病室のベッドですやすや眠っている。
軽い脱水症状などもあるが、命に別状はないそうだ。

「入院、ですか。私だけでは決められないので、父親に連絡してみます」

「分かりました」

 医者は気をつけることを何点か告げると、病室から出て行く。
 それを見送った千世は一旦、静子と病室の外へ出た。

「お父さん、いつ頃来られるんですか?」

「後は私がやっておきますから、あなたは帰ってください」

 会話が成立していない。
 千世が睨むように見つめれば、静子は怪しさを感じさせるように視線を逸らす。

「もしかして、連絡してないんですか?」

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