甘い恋の賞味期限
 千世の指摘に、静子は露骨に焦った色を浮かべる。

「どうして? 普通、連絡するでしょ?」

「……ば、バレちゃうじゃないっ」

「………………は?」

 静子が怒りを含んだ声で、自分の気持ちを主張する。

「私が出かけてたことが、間宮さんにバレちゃうかもしれない! そうなったら、クビって言われるっ」

「……あなた、自己保身が大事なのね」

 千世は諦めのため息をつくと、病室へ戻る。千紘を病院へ連れて来た時、一緒に千紘のスマホも持ってきた。
 そこに、父親の番号が登録されているから、自分が連絡しよう。

「……ちせ……?」

「すぐ戻るわ。お父さんに電話するから」

 頭を撫でれば、千紘はまた夢の中。
 この様子なら安心だが、医者の言う通り、念のため入院させた方がいいかも。
 ただ、それを決めるのは千世じゃない。

「あ、あの……」

「千紘のこと、見ていてください。すぐ戻りますから」

 病院内で、スマホは使っちゃいけない。
 千世は上着を羽織ると、そのまま外へ向かった。




*****

 会議中、史朗のスマホが控え目な音を鳴らす。普段は会議中、電源を切っているのだが、今日は千紘のこともあって電源を入れたままにしていた。
 だが配慮して、音量は下げていた。

「少し席を外します」

 史朗は父親や役員に一礼すると、会議室を出て行く。

< 51 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop