甘い恋の賞味期限
(知らない番号だ……)

 画面に出ている番号は、登録していない番号。誰にでも連絡先を教えているわけではないから、誰かの知り合いだろうか?
 とりあえず、出てみる。

「ーーはい」

『あ、千紘くんのお父様でしょうか? 私、槙村と言います。実は今ーー』

「失礼ですが、知り合いに槙村と言う者はおりません。どなたでしょうか?」

 聞き覚えのない、女性の声。
 そんな彼女の口から飛び出したのは、これまた聞き覚えのない槙村と言う名前。
 それから、息子の名前。警戒心と不審感を全開にして、史朗は強い口調で問いただす。

『えっと……あ! 下の名前は、千世と言います。ご存知かは分かりませんが、息子さんと何度かお会いしておりまして……』


「千世? もしかして、プリンの人ですか?」

『は、はい。そうです』

 なるほど。
 ようやく繋がった。番号を教えたのは、千紘か?

『実は今、病院にいるんです』

「病院? もしかして……」

『はい。吐いたり、熱が出てたりして。お医者様は、もう大丈夫だと言っていたのですが、念のため入院させますか、と聞かれたので……。今、お仕事中でしょうか?』

「すぐに向かいます。場所は……分かりました。では」

 電話を切ると、史朗は秘書室に連絡する。

「今日の予定はすべてキャンセルする。俺の荷物を持って来てくれ」

 こんな状態で仕事をしていられる程、自分は冷血人間じゃない。
 ただ、とても後悔している。無理矢理にでも、側にいてあげればよかった、と。

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