甘い恋の賞味期限
「どうも。…………」

(な、なんか見られてる……)

 史朗の視線を感じる。
 もしかして、バレているのだろうか。
 だとするならば、早急にこの場から立ち去らなくては。

「えっと……お父様も来られたことですし、私は失礼してーー」

「千世さんは、うちの会社の社員ですか?」

 き、気づかれていた。否定すべきだろうか?
 いや、史朗は確信を持って聞いてきているのだ。否定すれば、逆に怪しくなる。

「そ、そうですね……」

「うちの息子とは、どこで知り合ったんですか? 武内さんのお知り合いだと聞きましたが……」

 やはり、静子は正直に話していないようだ。

(う〜ん……どう話したものか……)

 やましいことは何もない。何もないのだが、いざ話すとなると躊躇われる。
 これ以上、関わるべきではないのに。

「責めるつもりはありません。ただ、知り合った経緯を知りたいだけなんです」

「……えーっと」

 仕方ない。
 千世は諦めて、話すことにした。

「ーーなるほど。息子がご迷惑をかけているようで、申し訳ない」

「い、いえ、お気になさらず」

 話を聞き終えた史朗は、怒っていないようだ。無表情にも近い表情をしているので、感情が掴みにくいが、怒りの色はない。
 その点は安堵できた。自分の母親がそもそもの原因なのだが、そこもスルーしてくれたし。

「…………」

「…………」

 ふたりは急に黙る。
 このまま、帰ってもいいのだろうか?

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