甘い恋の賞味期限
「息子ーー千紘はあなたに、随分懐いているようだ」

「……も、物珍しいだけかと思いますが」

 ある種のすり込み現象が、千紘には起きているのかもしれない。彼が食べたがっていたホットケーキを作ったから、それがきっかけで懐いたのかも。
 それ以降もプリンを作ったし、本当に餌付けしているような気分。

「……その、専務が会うのは迷惑だと仰られるなら、もう息子さんと会うのはやめますが……」

 今ならまだ、お互いの人生にそこまで介入はしない。千紘もすぐに忘れるだろう。

「千世さんと知り合って、千紘は毎日が楽しそうだ。……できることなら、これからも千紘の友達でいてあげてほしい」

「…………は、はい」

 まさか、許可が出るとは思っていなかった。思わず、千世は頷いてしまう。

「そ、そろそろ失礼します。これ置いておきますので、よかったら」

「あ、送って行きますよ」

 売店の袋を渡し、千世はバッグを手に持つ。
 それを見た史朗が、椅子から立ち上がる。

「お気になさらず。実家がすぐそこなので」

「……じゃあ、病院の外まで送ります」

「……お願いします」

 家まで送られるよりは、まだマシか。
 千世は頷くと、史朗と共に病室を出る。

「では、失礼しますね」

「あぁ、忘れていた。これを」

 史朗が懐から取り出したのは、1枚の名刺だ。裏面に何かを書き、千世へ差し出す。反射的に受け取ってしまった。

「……?」

 普通に仕事で使っている名刺のようだが、裏面には電話番号が別に書いてある。

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