甘い恋の賞味期限
 千紘を病院に連れて行っただけなら、ここまで疲れはしない。疲れた原因の大きな部分は、千紘の父親が間宮 史朗だったことだ。自分が働く会社の専務様と、思わぬ接点を持ってしまった。

「はぁ……」

 ため息と同時に、千世はキャンディに手を伸ばす。
 が、大好きなレモン味はすべて食べてしまっていた。

「レモンがない……」

「食べてしまったのね。ちゃんと片付けてね、千世ちゃん」

 頬を膨らませた千世を、両親は微笑ましいものでも見るような目で見てくる。
 それにちょっとイラっとしつつ、千世は食べてしまったキャンディの袋を片付け始める。

「やった。1個残ってた」

 片付けるのと一緒に、一か八かレモン味を探してみた。
 そしたら1個、底の方に残っていたのを見つけた。ラッキーだ。

「……はぁ」

 キャンディを口に含みつつ、改めて料理本に目を落とす。
 だが、集中できない。頭の中で、いろんな考えが駆け巡っている。

「何事もなければいいけど……」

 凪のように穏やかな日々。波風がたてば、船は揺らいで酔ってしまう。
 だからどうか、退屈な毎日が続きますように。
 そう願いながら、千世はレモン味のキャンディを食べ終えた。




*****

「親父、帰んねぇのか?」

「今日はこのまま、病院に泊まる。明日退院するからな」

 とは言え、何もすることがない。仕事を持って帰って来ればよかった。

「……なぁ、千世はいつ帰ったんだ?」

「お昼過ぎには帰ったぞ」

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