甘い恋の賞味期限
 そう言ったら、千紘は不満そうな顔をした。

「今度、お礼をしないとな」

「じゃあ、うちに連れて来てもいいか?」

 熱も出して、吐いて、軽い脱水症状だったと言うのに、千紘はすっかり元気だ。夕方過ぎまで寝ていたので、夜になっても眠気は来ないようで、ずっと起きている。

「それは構わないが……うちに連れて来たらお前、何か作らせるだろう? それじゃあ、お礼にならない」

「なんかやればいいのか?」

「…………」

 単純な話なのだが、史朗には難しい。生まれてから30年以上経っている、立派な大人なのに、贈り物をした経験が乏しい。特に、女性への贈り物はよく分からない。母親や秘書が選んだ物を贈ることはあっても、自分で選んだことはないのだ。

「やるならゆびわがいいぞ、親父」

「……それは、重いだろう」

 経験が乏しくても、指輪を贈るのは相手に与える重圧が大きいことは分かる。

「え〜」

「……花、は邪魔になるか。枯れるし」

 身も蓋もない物言いだ。
 よくドラマで、花束を恋人に贈ったりするシーンがあるが、いまいち良さが理解できない。綺麗だとは思うが、いつかは枯れてしまうのだ。
 だから、花は贈らない。

「じゃあ、服」

「服?」

「オレ、千世の服に吐いちまったし……」

 おぼろげな記憶の中、自分が彼女の上着に吐いてしまったのを覚えている。
 それに、制服にも吐いた。

「……分かった。秘書に……それじゃあ、ダメか」

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