甘い恋の賞味期限
 それを受け取るわけにはいかない。
 だが、史朗も引く気配はないようで……。

「千紘が君の服に吐いてしまったと聞いたんだが……」

「吐いたのは制服です。あ! なら、新しい制服を支給していただければ満足ですので」

「それは支給品だ。俺個人の感謝を伝えたかったのだが……好みじゃなかった?」

 史朗が顎に手を添え、考え込む。一晩考えて、店も調べて自分で買いに行った。
 千世の服のサイズだけは、秘書に調べてもらったが。

「贔屓のブランドがあるなら、そこで買って来よう」

「いや、贔屓のブランドなんてありませんが……」

 普段着ている服だって、気に入った物の中で手頃な価格の物を選んで買っている。ブランド品なんて、贅沢すぎて買わない。

「だが、新しく買ってもうちじゃ使えないし……結局、君に贈るしかないんだが」

「……分かりました。ありがたく頂戴します」

 押し問答を繰り返していても、千世に不利だ。もったいなくて着れないと思うが、受け取るしかない。

「そうか。ありがとう」

「こ、こちらこそ……」

 袋を受け取ったはいいが、これを持って専務室を出るのか。誰にも見られなければいいが。

「それから、もうひとつ。息子が、千世さんをうちへ招待したいらしい。日曜日は、何か予定がありますか?」

「特にはありませんが……」

「それは良かった。日曜日は、俺も仕事が休みなので」

「………………」

 つまり、その日は貴方もいると?
 予定がないなんて言ってしまった自分が憎い。痛恨のミスだ。

「で、では……仕事に戻りたいと思います」

 千世は袋を隠すように持ちながら、専務室を駆け足で出て行く。

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