甘い恋の賞味期限
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 22時過ぎ、史朗はようやくマンションへ帰って来ることができた。千紘は病み上がりだから、早く帰りたかったのだが、今日は会議やらが長引いた。母親が数日泊まってくれると言っていたから、そこまで心配しなくてもいいと思うが、やはり早く帰りたかった。
 もう千紘は、寝ていることだろう。

「おやすみなさいませ、専務」

「あぁ、おやすみ」

 送迎車から降りると、史朗はカードキーを取り出そうと、一旦足を止める。

「ま、間宮さん!」

 あと2時間で、日付が変わるという時間。女性の声に名前を呼ばれ、史朗は顔を上げる。

「武内さん……」

 予想していなかった人物に、史朗は素直に驚いた。
 そして、疑問が湧き上がる。何故、ここに?

「あ、あの……どうしても、間宮さんに言いたいことがあって」

 彼女がどのくらいの時間、ここにいたのかは分からない。夏の暑さがわずかに残るとは言え、夜は冷えてきた。心配する気持ちはあるが、静子は既に解雇している。冷たいと言われるのは覚悟しているが、彼女を気にかける気持ちは、かなり薄れてしまっていた。

「き、聞いてくれますか?」

「……構わない」

 彼女を気にかける気持ちは薄れていても、話を聞くくらいはできる。カードキーを取り出す手を止め、史朗は静子と向き合う。

「私……間宮さんが好きなんです!」

「……………………そうか」

 告白されたと言うのに、史朗は無表情。内心、ドキドキしているわけでもない。告白されても、彼の心はまったく動かないのだ。感情表現が下手だとか、そういう話ではない。感情があまりにも希薄で、冷淡にも見えてしまう。

「間宮さんは、私のこと……どう思っていますか?」

 精一杯の勇気をかき集めて、静子はここにいる。家政婦という繋がりを失ってしまったから、こうして自ら動くしかない。

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