甘い恋の賞味期限
「なら、私で試しましょうっ。好きになるかもしれない」

 粘る静子に、史朗は呆れたようなため息をつく。
 ここまで言っても引かないのは、それだけ本気と言うことなのだろう。
 だが、史朗にはどうでもいい。涙を流し、必死になる彼女を見ても、心がなんの反応も示さないんだ。

「ーー帰りなさい。他人を愛したことはないけど、これだけは分かる」

「……なん、ですか?」

 静子を離し、史朗は彼女にハッキリと告げる。

「自分がこの先、絶対に愛さない人。それは分かる。ーー武内さん、俺にとっての君は、そのフォルダーに分類されてる」

 史朗はカードキーを取り出すと、マンションの中へ入る。振り返りはしなかったが、静子が追いかけて来ないことは分かった。

「……疲れた」

 エレベーターに乗り込み、壁にもたれかかる。今日は朝から、千世に渡すための服を買いに行ったし、母親からの報告メールが頻繁に来ていたし、挙句に静子のアレだ。疲れを感じないはずがない。

「…………」

 こういうことがあるたびに、思うのだ。女性は面倒で、自分には理解できない生き物だと。
 それでもやはり、【母親】は必要だと思う。千紘のためにも。




「あら史朗さん。今日はそんなに疲れたの?」

 リビングで本を読んでいた母親が、帰って来た息子を見て一言。

「まぁ、疲れましたよ。……千紘は寝ましたか?」

「えぇ。よく分からないけれど、ずっと千世、って言う女性のことを話していたわ。写真も見せてくれたけど、本人は写っていなかったわねぇ」

 予想していたことだが、やはり千紘は話していたか。説明するのは面倒だが、薫子は話しなさい、と言うオーラを出しまくっている。

「うちで働いている社員で、千紘がよく懐いている女性なんです。俺も、最近知ったんですよ」

 キッチンに行けば、テーブルに煮物が置いてあった。

< 69 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop