甘い恋の賞味期限
「君も、引き受けるのはやめなさい」

「……はい。失礼します」

 逃げるように、千世は秘書室を出て行く。
 まさか専務様に会うとは……。

(けど、あの秘書の顔は見ものだったわ)

 エレベーターを待ちながら、千世は思い出してひとり笑みを浮かべる。

「あ……封筒、忘れた」

 エレベーターの扉が開いた瞬間、千世は先程渡された3つの封筒を忘れて来たことに気づく。取りに戻るのもシャクだし、後で部長に頼んで秘書室に連絡してもらおう。
 千世が連絡すれば、絶対に文句しか言われないが、部長が連絡すれば大人しく引き下がってくれる。召使いのように扱われていても、総務部の部長は年長者。見下した発言は控えてくれる。
 エレベーターに乗り込み、千世はようやく緊張から解放された。




 お昼はいつも、お弁当持参。社食でも良いのだが、味が濃すぎて好きになれない。何よりも、自炊すれば節約になる。

「卵焼きちょうだい」

「嫌」

 伸びてきた箸を、箸で弾く。
 千世が睨むと、小山田 心晴(こはる)が不満げに弾かれた自分の箸を口に加える。

「ケチ」

「ケチで結構よ」

 気にせず、千世は最後の卵焼きを口に放り込む。

「晴ちゃん、私の唐揚げあげよっか?」

「ありがと〜。愛菜は優しいね〜。誰かさんとは大違い」

 隣の席に座る広瀬 愛菜が、見かねて自分の唐揚げをひとつ、心晴に渡す。

「けど、晴ちゃんの気持ちもわかるな。だって、千世ちゃんの料理、すっごく美味しいもん」

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