甘い恋の賞味期限
 それを聞かれても、答えに困るのだが……。黙る父親を千紘はジッと見つめ、答えを待っている。

「そう、だな……好きになるためには、お互いを知る必要がある、かな」

 律儀に答えるのもどうかと思ったが、千紘があまりにも期待した目で見てくるので、答えないわけにはいかなかった。

「おたがいを知る……。どうやって?」

「う〜ん……たくさん話す、とかか?」

 他人に興味がない史朗は、誰かを深く知ろうなんて思わない。息子に説明していても、それは自分の意見じゃなくて、一般論の領域を出ない。

「たくさん……。なぁ、千世! 親父と話してくれよ」

「お前は行動力あるなぁ」

 我が息子ながら、尊敬に値する。
 だが今は、その行動力に一言申したい気分だ。

「話って……何を?」

 ひき肉をこねていて、千世は背を向けたまま。

「なんでもいいぞ。親父とたくさん話したら、親父のこと好きになるだろ?」

「話題がないから無理」

 バッサリと断れば、史朗も確かに、と頷く。

「千紘、黙って飯を食え。おやつにケーキ食べていいから」

「マジか? やった」

 興味がケーキに移ったらしい千紘は、スプーンを持ち直してオムライスを食べ始める。

「千世。スープおかわり」

「手が汚れてるの。お父さんにお願いして」

「じゃあ親父、おかわり」

 皿を差し出せば、史朗はやれやれといった顔で皿を受け取る。
 だが、食欲があるのは元気な証拠。

(笑ってる……)

 スープを注ぐ史朗が微笑んでいるのを、千世は偶然にも目撃してしまった。

(まぁ、専務だって笑うか。ロボットじゃないんだし)

 あまり深く考えないようにして、千世は晩ご飯のロールキャベツ作りに集中することにした。

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