甘い恋の賞味期限
*****

 太陽が沈んだ20時過ぎ、千世はようやく帰ることになった。帰ろうとするたびに千紘が意地になって呼び止めたが、当の本人は遊び疲れたのか今は寝てしまっている。
 なんだかんだ言って、夕食も食べてしまったし。

「それでは、お邪魔しました」

「あぁ、家まで送ろう。鍵は……」

 玄関へ移動しつつ、史朗は車のキーを探す。
 どうやら、またどこかへ置いてしまったらしい。

「ひとりで帰れます。まだ電車もありますし」

「家は、ここから近いと聞いたが?」

「それは実家です。今はひとり暮らしをしているので」

 玄関で靴を履き、千世は背後の史朗を振り返る。
 やはり、史朗は身長が高い。

「なら尚更、送ろう。君は客人なんだから」

「専務が送ったとして、息子さんはどうするんですか? ひとりですよ?

「あ……」

 史朗は諦めたらしく、千世は内心、安堵する。千紘がいればマシだが、専務とふたりきりなのは精神的に耐えられない。

「あの……私、もうここへは来ません」

「それは……どうして、と聞いた方がいいんだろうな」

 その言い方がちょっと引っかかるが、スルーしよう。

「ここは息子さんの家であるのと同時に、専務の家なわけです。そんなお宅に気軽にお邪魔出来るほど、私の神経は図太くないですし、面の皮も厚くないわけです」

「……そうか。千紘は、残念がるだろうな」

「うちへ来る分には、構わないので。息子さんとは、外で遊びます。だから、専務とは会いません」

 ハッキリ告げて、千世は間宮家を後にする。
 それを見送り、史朗は腕組みをしたまま、しばらく玄関にいた。
 あそこまでハッキリ、会わないと宣言されたのははじめてだ。母親は見合い相手と会えと言うし、女性は会いたいと言う。はじめての経験だったから、少し新鮮だった。

「あ、車のキー探さないと」

 思い出して、史朗はリビングへ引き返す。
 しかし、今日は車を運転していない。リビングを探し続けて30分。結局、見つかったのは寝室に脱ぎ捨てたスーツの内ポケットに入っていたのだが。

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