甘い恋の賞味期限
「仕方ない。母さんに連絡してから……あれ、ない」

 無くす前に、招待状を手帳に挟んでおこうと思ったら、招待状が見当たらない。
 さっき確かに、デスクに置いたのに……。

「あ、向こう側に落ちてたのか」

 床に落ちた招待状を拾い上げ、史朗は母親に電話する。

『史朗さん? どうしたの? 千紘なら今、お勉強中よ』

「そうですか。あの、猪寺さんに連絡してもらえますか? 週末、誕生祝いのパーティーがあるそうなので、同伴をお願いしろと社長ーー父さんに言われまして」

『あなた、まだ番号を登録していなかったの? 仕方ないわねぇ』

「お願いします」

 薫子は呆れているが、まぁ、いつものことだ。

『史朗さん。……別に、千世さんを誘っても良いのよ』

「何故、彼女の名前が出てくるんですか?」

 和音の番号を控えながら、史朗は眉間にシワを寄せる。

『千紘が言っていたわ。千世さんに、お母さんになってほしい、って』

 あの息子は、もう少し口の締まりを良くしてもらわないと。思ったことをなんでも口にして、困らせるのが史朗だけならいい。
 だが今は、千世にも迷惑がかかりそう。

「母さん、千紘のそれは一時的なものです。本気にしないでください。俺も、彼女に特別な感情を抱いているわけではないですし……」

 千紘が懐いているから、史朗もなるべく気遣っていた。自分の中では。
 そう、あくまでも史朗の中で、千世は千紘が懐いている人、という印象しかないのだ。

「猪寺さんには、母さんから連絡を頼みます。それから、今日は帰りが遅くなるので」

『史朗さん、まだ話はーー』

 長くなりそうだったので、強引に電話を切った。いい加減、新しい家政婦を見つけないと、帰るたびに有る事無い事言われてしまう。

「……今度は年配の方にしよう」

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