甘い恋の賞味期限
 静子の件もある。家に上げる女性は、やはり誰でもいいというわけではないのだ。
 史朗はスマホをスーツのポケットにしまいーー無くすと困るので、戻す場所は決めているーー、仕事に戻ることにした。




*****

 土曜日、千世は久しぶりに自由な休日を謳歌していた。朝から家の掃除や洗濯を済ませると、昼前に外へ出かけて、前から行ってみたかったお店で早めのランチを食べた。
 それから、行きつけの雑貨店を覗いて、本屋さんで立ち読みもした。もちろん、ちゃんと買いましたよ。料理本を1冊。
 千紘と知り合ってから、休日はいつも騒がしかったから、こんなにも静かで、悠々自適な休日は久しぶりだ。
 とは言え、千紘は今日も千世と会う気でいたようだ。
 しかし、見合い相手と会うとかで、今週は会うことができなくなった。

「たまにはこんな日があってもいいわよね〜」

 ある程度遊んで、千世は休憩もかねて実家の喫茶店に顔を出していた。今日は手伝いじゃなく、お客さんとして。本屋で買った料理本を開き、父親が淹れたコーヒーを飲む。
 いい休日だ。

「今日はお客さんが千世さんだけですね。早めに閉めても、いいかもしれませんねぇ」

 父親が、カップを棚にしまいながら呟く。本当に、店内には千世しかお客さんがいないのだ。

「誰もいないなら、寝転がってもいい?」

「いいですよ。靴は脱いでくださいね」

 父親の千陽は、中々におおらかな人だ。
 ある程度のことは、許してくれる。
 まぁ、千世も無理はしない性格だから。

「千陽さん。私、買い物に行ってくるわ。トイレの電球が切れてしまったの」

 奥から現れた咲世子が、エプロンを外しながら、寝転がる娘を見て目を見開く。

「千世ちゃん! はしたないわっ」

「父さんは良いって言ったのに……」

 仕方ないと、千世は起き上がる。靴も履いて、少し冷めたコーヒーを一気に飲み干してしまう。

「ふたりで行ってきたら? 私、店番してるし」

< 88 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop