甘い恋の賞味期限
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 間宮グループのトップに君臨する間宮 勝彦は、非常に頑固だ。有言実行を信条に、父から引き継いだこのグループを成長させ続けてきた。
 そんな彼にも、ある悩みがある。

「お前達は、いつになったら結婚するんだ?」

 仕事終わり、家族揃っての食事は久しぶりだ。馴染みのレストランで、今は甘いデザートが運ばれてきたところ。
 それなのに、雰囲気は甘くもなんともない。
 史朗は炭酸水を流し込み、またこの話か、と嫌気がさす。

「兄さんは1回したよね? それはカウントしないの?」

「私は真面目に言っているんだ」

 ギロッと睨まれたのは、史朗の弟・拓海。
 あまりにも父の睨みが強すぎたので、一瞬で口を閉じた。

「拓海はいいとして、史朗。お前、再婚を考えてはいないのか?」

 弟の拓海は、まだ20代。経験すべきことはたくさんある。
 それに反し、兄の史朗はバツイチで子持ち。

「そうね。千紘の事を思えば、やはり母親は必要だわ」

 勝彦の妻・薫子も、夫の意見に賛成のようだ。孫の今後を思えば、片親というのはよろしくない。

「お母さん、神戸の藤子さんに、良いお嬢さんを紹介してもらいましょうか?」

「いりませんよ。……今は仕事と千紘の事で手一杯です。女性の事を考えてる余裕はありませんから」

「それなら、尚の事よ。母親がいれば、貴方の負担も減るわ。そうでしょう?」

 にっこり笑っているが、薫子は絶対に引かない。
 あの頑固者の父に、長年連れ添ってきたのだ。優しそうに見えて、実は我慢強い。

「……千紘は生意気ですから、気にいるかどうか……」

「生意気に思えても、心の奥底では母親の愛情を求めているものよ。明日、早速藤子さんに連絡してみるわね」

 笑顔の母親を見つめるが、史朗の内心は複雑だった。


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