甘い恋の賞味期限
「なんであいつがいるんだよ」

 千紘は不満げに、知り合いと談笑する和音を見ている。

「女性と一緒に来い、とお祖父さんに言われてるんだ。我慢してくれ。ほら、ケーキがあるぞ。食べるか?」

 機嫌を取ろうとするが、千紘は食べる気がないらしい。

「史朗くん。久しぶりだね。間宮社長は……」

「両親は遅れて来ます。すみません」

 パーティーの主役が話しかけてきたので、史朗は息子から視線を上げる。サクラ出版の社長・桜木 真一を前に、史朗は笑みを返す。

「彼女は?」

「見合い相手、です。父に、女性と同伴で出席しろと言われましたので……」

「その言い方じゃ、嫌々彼女と来たみたいだぞ」

 確かに、と言ってしまった後に気づく。
 だが、隠すつもりはそもそも無いのだ。知られたとしても、史朗は気にしない。

「あの、息子さんは……」

 会場を歩き回ったが、桜木の息子を見ていない。

「あれは放蕩息子でね。史朗くんと違って、仕事に興味がないらしい」

 笑っているが、桜木の目は悲しそうだ。

「そろそろ、強行手段を取ろうかと思っていてね」

 だが、すぐに桜木は目の色を変える。悲しげな色は払拭され、どこか楽しそうな色を浮かべた。

「そうですか……?」

 視界の端に、和音が映り込む。今まで気づかなかったが、彼女はなんだか顔色が悪そうだ。化粧をしているし、確実とは言えないが、少し気になる。

「失礼します。……息子をお願いしても、いいでしょうか?」

「構わないよ」

 不機嫌そうな千紘を桜木に任せ、史朗は和音の元に向かう。

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