甘い恋の賞味期限
「大丈夫ですか?」

「え?」

 近くで見れば、やはり顔色が悪そうだ。

「体調が悪いようですね」

「……はい」

 会場を出れば、和音は肩の力を抜く。話を聞けば、昨日から風邪気味らしい。

「断ってくれても構わなかったんですよ?」

「そんな……私は平気です」

 そう言っているが、無理をさせるのは良くない。和音の手を取ると、史朗はスマホでタクシーを呼ぶ。

「今夜は帰ってください。タクシーもすぐ来ます」

「……送っては、くださらないんですか?」

「両親もまだ来ていませんし、息子も残しているので」

「……そう、ですよね」

 和音は落ち込んだような顔で、エレベーターが来るのを待つ。隣のエレベーターを待つカップルは、上のバーに行くようだ。

「ーー気をつけて」

「はい」

 和音は無理して笑顔を浮かべ、エレベーターに乗り込む。ドアが閉まるのと同時に、隣のエレベーターのドアが開いた。カップルが乗り込もうとすると、怒りを含んだ声を発しながら、女性がふたり、口論しながら降りてきた。

「信じられる? あの男、初対面の私を叩いたのよ?」

「悪かったわよ。あんな人だとは知らなかったの」

 現れたふたりの女性のうち、ひとりには見覚えがない。
 だが、ひとりは良く知っている。千世だ。

「最悪の休日だわ。こんな目にあうって分かってたらーー……」

「どうしたの?」

 千世が急に黙るので、心晴が怪訝な顔付きになる。

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