兄妹ものがたり
そう、来店した時は確かに一人だった。
お客も他には誰もいなくて、カウンターの向こうからは、学生時代からの友人でありこの店のマスターでもある男が笑顔を浮かべて出迎えてくれたはずだった。
「なんでって、マサが路地に入ってくのが見えたから、ハレのとこ行くんだろうなあって思ってついてきた」
能天気なその笑顔にとてつもなく腹が立つ。
「やっぱおれ達は三人でないとな!中学の時からそうだろ」
「だからって、俺の貴重な昼休みをわざわざ邪魔しに来るなよ」
「まあまあ二人共、将人君おかわりいる?」
コーヒーサーバーを軽く掲げてみせる姿に、頷き返してカップを差し出す。
そう言えば…昔からこうして、大和のバカとやりあっている時には決まって彼がやんわりと間に入ってくれていた。
「あっと、おれちょっとトイレー!あとハレ、おれにはいつものミルク多め砂糖も多めでよろしく」
忙しなく席を立つ大和を見送り、深いため息をついてコーヒーを啜る。