兄妹ものがたり

恥ずかしがり屋のマスターが、普段の店番を店員である竜二に任せっきりにして、奥の小さなキッチンスペースにこもりきっていることは常連ならば誰もが周知の事実だ。
何故か耳まで真っ赤にして俯く晴人は、カップにスプーン四杯もの砂糖を放り込んでかき回している。


「でもさ、お前ちょっと変わったよな」


慎重な手つきでさらなるミルクを注ぎながら、晴人が言葉の意味を測りかねて小首を傾げる。


「梨香さんがいなくなってすぐにお前はこの店継いだけどさ、とても店に出られるような状態じゃないって竜二さんも心配してたし…俺達もさ、落ち込んでるお前になんにもしてやれないのが歯痒くて…悩んだりしたこともあったんだよ」


カップには何杯目かもわからない砂糖が加えられ、満足そうに微笑む晴人によってかき混ぜられている。


「ほんとに…あの頃に比べたらだいぶ変わったな」


コーヒーの淹れ方も初めの頃より手際よくなったし、味も格段に旨くなった。
それでもやはり、竜二の淹れたコーヒーには遠く及ばないが…。
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