兄妹ものがたり
「彼女を見てると、姉さんを思い出すんだ」
「梨香さんを?似てるのか」
「どうだろう…どちらかっていうと、顔よりも雰囲気が似てるのかも」
そう言って笑う晴人の顔は、恥ずかしさからか相変わらず薄赤く色付いている。
「次来たときは、もっと詳しく聞かせてくれよお前の“彼女”の話」
腕時計にチラッと視線を送って、温くなってしまったコーヒーの最後の一口を飲み干す。
「なっ!?か、彼女じゃないから…!!」
「はいはい、これお代な」
真っ赤な顔でわたわたと慌てる晴人の前に代金を置いて席を立つと、振り返ってお手洗いと店内を仕切る壁を鋭く睨みつけた。
「随分と長いトイレだな、大和」
睨みつける視線の先から、わざとらしい笑みを浮かべた大和が姿を見せる。
「いやいや、トイレの長さには個人差ってものがあるでしょうよ」
何食わぬ顔で歩いてくる大和とすれ違いざまに、深いため息をこぼす。