兄妹ものがたり
「…これは、私の」
うつむき加減で小さく呟いたななをしばらく見つめ、ニヤっと口角を上げて笑う。
その顔にハッとしたように手を離すと、僅かに赤く染まった頬を隠すようにそっぽを向く。
「別に深い意味はない、ただ早希ちゃんは食べ過ぎなだけ」
「そういうことにしといてあげる」
いつもはほとんど表情を変えることのないななの、珍しい様子を見られたことに満足していると、突然こちらを振り返った視線に鋭く射抜かれた。
「ところで、早希ちゃんは最近どうなの?」
「…えっと、何が?」
唐突すぎる問いかけに意図が全く理解できず、誤魔化すように笑って見せると、ななが深くため息をついた。
「彼氏とうまくいってるのかって話」
“彼氏”という単語に、一瞬で顔に熱が集まる。
未だに馴れないその呼び名は、聞いただけで何となくむず痒くなって落ち着かない。
明らかに動揺したその様子に、ななの表情が一瞬で険しいものに変わった