兄妹ものがたり
本気になればいつだって追いつけるはずなのに、あえて一定の距離を置いて追いかけてくる彼の気遣いが今回に限ってはしゃくにさわる。
こうなってしまっては、自分から立ち止まることはプライドが許さなかった。
「早希」
ようやく腕を掴まれて足を止めるも、目を合わせることはできずに俯いて足先だけを見つめ続ける。
「バカにしたんじゃない、ただ微笑ましかっただけだ。
早希の言動の中に大和の片鱗を見るとさ、バカな奴だけどちゃんと“兄”なんだなって」
その優しい声に、顔を上げたくなる。
今彼は、どんな表情で自分に語りかけているのか見てみたい…けれど、そんな好奇心もプライドに押さえ込まれて結局視線は変わらない。
「早希が寂しくないように、空いた父親の枠はおれが埋めるって意気込んで、あいつもあれで必死だったんだよ。
ずっと必死だった…ただバカみたいに騒いでるから分かりづらいだけで、いつも早希のことを考えてる」