兄妹ものがたり
その愛情を幾度となく鬱陶しいと感じていた。
まるで子供扱いされているようで、どうしようもなく苛立った。
「だからさ、早希の中に微かにでもあいつを見つけると何となく俺も嬉しくなるんだよ、あいつの気持ちはちゃんと早希に届いてるんだなって」
幼いころに他界した父の顔は、全く覚えていないけれど、確かに寂しいと思ったことは一度もなかった。
けれど、それが兄のおかげだなんて考えたこともなかった。
「早希を守るのはあいつの役目なんだとさ」
ポンっと置かれた手の平が、優しく頭を撫でる。
いつもの乱雑な撫で方はなりを潜めて、慈しむようにそっと手の平が髪の上を滑る。
「でも、早希を幸せにするのは自分の役目じゃないんだと」
何処か楽しそうなその声音に、押さえ込む間もなくスッと顔が上がってしまった。
視線の先で、優しい目をした彼がこちらを見つめて微笑んでいる。
「なら、お前を幸せにするのは俺の役目ってことだよな」