兄妹ものがたり

次の瞬間、唇に触れた柔らかい感触に驚きで目が見開かれた。
一瞬で離れて行った温もりの正体に、しばらく体が動かない。


「まずは、あいつに認めさせることから始めるか」


固まって動けない頭を、今度は乱暴に撫で回して、彼は可笑しそうに笑う。


「ほら早希、そこまで送ってやるから行くぞ、あんまり遅くなると父親気取りのバカがうるさいからな」


クイッと手を引かれてようやく体は動き出すものの、頭の中は未だに思考が定まらずにほわほわしている。
確かに歩いているはずなのに、地に足がついている感覚がまるでなく、体が浮かんでいるような浮遊感があった。


「ねえ将人……」


だからきっと、考える間もなく開いた口から自然と言葉がこぼれ落ちたのだ。


「………今の、もういっかい……」


小さく呟いたその言葉に、驚いたように動きを止めた彼は、フッと笑って覆いかぶさるようにゆっくりと屈み込んだ。
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