兄妹ものがたり
「先輩、飲まないんですかー?」
「飲んで欲しかったら当日じゃなく前の日に連絡よこせ、あいにく今日の俺は車だ」
ノンフレームの眼鏡を指で押し上げて、冷たく言い放つ先輩から仕方なく視線を外し、隣でゆらりゆらりと頭を揺らしながら楽しげに笑っている晴人をそっとテーブルに導く。
面白いほどあっさりとそれに従う晴人は、そのまままた静かにテーブルに突っ伏した。
「こんなに酔ってる小向も珍しいな、お前一体どれだけ飲ませたんだ」
若干責められているようにも聞こえるその問いかけに、ヘラっと笑って指を五本立てて見せる。
「最初はビールで乾杯して、次にハイボール頼んだら“美味しい”って言うんでそれをもう一杯、それから梅酒をロックで試したらヘロヘロになっちゃって、でもせっかくなんで水割りも飲ませたらこうなりました」
「“こうなりました”じゃないだろ」
再び脳天に突き刺さる鉄拳に、頭を抑えてうずくまる。
先輩の拳は、とにかく昔から容赦がなかった。