嘘とワンダーランド
京やん、わたしは課長と結婚しているんだよ。

わたしは課長の妻なんだよ。

そう言いたいけど、この状況で言える訳がない。

広いだけの会議室にいるのは、わたしと京やんの2人だけ。

京やんのことを止めてくれる人は誰もいない。

どうすればいいの?

この場から逃げたくても、囲まれているせいで逃げることができない。

「お前を他の男に渡したくないんだ…」

呟くように言われたのと同時に、わたしのあごに彼の指が添えられた。

クイッと、うつむいていた顔をあげられる。

「きょ、京やん…!」

京やんの瞳に映っているのは、わたしの顔だった。

その瞳がいつくしむように細められたのと同時に、彼の顔がだんだんとわたしに向かって近づいてきた。
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