嘘とワンダーランド
「――か、課長…」

会議室に入ってきたのは、課長だった。

わたしの呟いた声に気づいたと言うように、京やんは課長に視線を向けた。

今の、見られていないよね…?

そう思ったとたん、わたしの心臓がドキドキと早鐘を打ち始めた。

課長を見つめているわたしの顔は、病気かと聞きたくなるくらい真っ青な顔をしていることだろう。

背中に流れている冷や汗が気持ち悪い。

課長はわたしたちのところへ歩み寄ると、
「京極、取引先の部長がお前に会いたいって」

京やんに声をかけた。

「えっ…ああ、はい、すぐ行きます」

京やんは課長に会釈をすると、早足で会議室を後にした。

彼が去って行く後ろ姿を、わたしは見送ることしかできなかった。

会議室に残ったのは、わたしと課長の2人だけになった。
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