嘘とワンダーランド
もしここでわたしがこの話を断ったら、『ふくだや』を潰さないといけないことになってしまう。

そのせいで両親と数少ない従業員たちが路頭に迷うことになってしまう。

それだけは間違ってもごめんだ。

両親はもう若くないし、従業員の中には家族を持っている人だっている。

わたしのせいで彼らが路頭に迷うことだけは避けないといけない。

「――わかりました」

そう言ったわたしに、両親はホッとした顔を見せた。

「本当に、それでいいのかい?

嫌なら断ってもいいんだぞ?」

そう言った社長に、
「あなた、正文さんと若菜さんがそれでいいと言っているんですから」

社長夫人が言った。

「わたし、朽木正文さんと結婚します」

宣言するように、わたしは彼らに言った。
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