嘘とワンダーランド
課長の手は離れたけど、わたしの躰は壁についたままだった。

「わたし、知っているんですよ?

課長につきあっている人がいて、その人と結婚を考えてたって言うくらいの好きな人を…」

こんなことを言いたくなかった。

だけど、1度あふれてしまった怒りはもう止めることはできなかった。

眼鏡越しの瞳が驚いたと言うように大きく見開かれる。

彼のその様子から、踏み込んではいけない場所に入ってしまったことがわかった。

「わたしと結婚するからその人と別れたことも、知っています…」

「お前…どこから聞いたんだよ…?」

わたしがその事実を知っていることに課長は驚き、戸惑っていた。

「早瀬千沙さん…。

そうですよね?」

その名前に、眼鏡越しの瞳が色を失くした。
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