嘘とワンダーランド
「千沙は…千沙は、違う…」

呟くように言った課長に、
「何が違うんですか？

課長は本当はわたしでもお姉ちゃんでもなくて、千沙さんと結婚したかったんでしょう？」

わたしは言い返した。

言ってしまった…。

このまま隠していたかったのに、課長にぶつけてしまった。

頭は怒りのあまり熱くなってしまっていたけれど、どこか冷静になって事態を見守っている自分に気づいた。

「千沙は…」

ガクンと課長の膝が折れたかと思ったら、彼はその場に座り込んだ。

壁に添えられていた彼の手が離れる。

「――課長…？」

何があったのだろう？

課長と同じ目線にあわせて、彼の顔を覗き込む。

「――ッ…！？」

その顔を見たわたしは、何も言うことができなかった。
< 165 / 303 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop