嘘とワンダーランド
課長も同じことを思ってくれていたことが嬉しくて、わたしの心臓がドキドキと加速した。

「若菜、顔が紅い」

「――んっ…」

課長の唇が、熱を持った頬に落ちてきた。

課長の指が伸びてきて、わたしの髪を耳にかけた。

「おかしなもんだな…。

結婚してから恋に落ちるなんて」

そう言った課長に、
「そうですね…」

わたしは返事をした。

わたし、さっきから“そうですね”しか言っていないような気がする…。

もっと他に言うことがあるはずなのに。

もっと返事をすることがあるはずなのに。

なのに…課長を前にしてしまったら、何も言えなかった。

「不謹慎なことを言うと、早苗さんが駆け落ちしてくれたことに感謝しているんだ」

課長が言った。
< 224 / 303 >

この作品をシェア

pagetop