嘘とワンダーランド
「――若菜…」

課長がわたしの名前を呼んで、わたしの顔を覗き込んできた。

眼鏡越しのその瞳が好き。

わたしの名前を呼ぶその声が好き。

その指先も、その唇も…課長の全てが好き。

こんなにも誰かのことを好きと思ったのは、彼が初めてだ。

そして、彼がわたしの最後の人であって欲しいと心の底から願った。

「――正文、さん…」

名前を呼んだとたん、わたしの目から涙がこぼれ落ちた。

「――若菜…」

課長はわたしの頬に口づけて、その涙をぬぐった。

「――ッ、好きです…。

大好き、です…」

泣きながら震える声で何度も言ったわたしに、
「――俺は、愛してる。

愛してるよ、若菜…」

課長が言った。
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