嘘とワンダーランド
1◇突然の政略結婚と姉の駆け落ち
衣料品メーカー『クロス・リボン』は、女性用下着を中心に取り扱っている大手企業だ。

わたしこと福田若菜(フクダワカナ)は、この会社のデザイン課に配属になって今年で3年目になる。

元々は事務の仕事を希望していたのだが、専門学校の被服科でデザインの勉強をしていたと言う経歴があったため、ここへ配属された。

本当のところを言うと、“下着デザイナー”と言うのは名ばかりで仕事らしい仕事をもらったことがなかった。

仕事のほとんどは雑用と言っていいほどである。

「やり直し」

デザイン課の課長・朽木正文(クチキマサフミ)の低く、冷たい声が狭いオフィスに響き渡った。

「おいおい、まただぜ…」

わたしの隣のデスクに座っている京やんが小声で話しかけてきた。

京やんこと京極竹司(キョウゴクタケシ)はわたしの同期の男である。

彼とは入社式の時に席が隣同士で、そのうえ配属される部署が一緒だったと言うことから友達になった。
< 4 / 303 >

この作品をシェア

pagetop